好奇心を誰かの価値に。全ての人に生きるマーケティング思考ーPATHWAVE内藤博之さん

前編「マーケティングとは新たな価値をつくる考え方ーPATHWAVE内藤博之さんが語る、グローバルマーケティングで変わること、変わらないこと」こちら

新卒から10年以上、ユニリーバにて国内外のグローバルブランドの開発とマネジメントをリードした後、人財ブランド・キャリアマーケティングを手がける、 株式会社パスウィーヴの内藤博之さん。

そんな内藤さんに、マーケターとして影響を受けた本、また、マーケターとして新たな価値を生み出すために何に気をつけていけばいいのか?をお伺いしました。

内藤博之(ないとう・ひろゆき):株式会社パスウィーヴ代表取締役社長 x 立教大学グローバルリーダーシッププログラムGLP特任准教授
多国籍企業ユニリーバで、シンガポールから全世界に向けたグローバルブランド開発や、インド全土でのブランド育成など、世界中のリーダーと国境を超えた7つのブランドビジネスをリード。一方、課外活動としてフィリピンの児童養護施設の子ども達や、交換留学を目指す高校生支援を続ける中、マーケティングは人が新たな価値を生み、自己実現をする力になると実感。(株)パスウィーヴを創業し、好奇心で未来を紡ぐ人財育成・キャリア開発を手がける。企業・学校・NPO、50業界以上の多様な人々の力に。

オススメの本・影響を受けた人

福田これまで読んできた本の中でオススメの3冊を教えてください。

内藤博之氏(以下、内藤氏)実践しながら覚えたこと、ユニリーバの社内教科書や研修から学ぶことが先で、本を読んで理論を学んだのは社会人数年経った後です。経験した後で、本を読み、概念化するといった形です。このサイトは大学生が多く見ていると思うので、実際に私が大学時代から入社数年内で、マーケターとして影響を受けた本を3つ挙げてみます。

1冊目は、ゼミの桑原先生が書かれた『ポストモダン手法による消費者心理の解読』が私の原点になった本です。一人の消費者の見ているものをリアルに感じるために、インスタントカメラを2つつなげたカメラで写真を撮るなどして、その人の気持ちを理解していくことが書かれています。純粋に「人」の多様さとその理解を深める体験ができ、消費者の理解の奥深さと可能性を感じたのは、この本がキッカケです。

もう1冊はジェームズ・ヤングの『アイデアの作り方』誰もがアイデアを出せる方法があるんだと知り、アイデアを出す原理原則とひらめく瞬間をつくるために、自分ができることを学びました。これは後に、企画発想で煮詰まった時に原点に立ち返ることで、新たなアイデアを湧かせる大きなヒントになりました。

3冊目は『ネクスト・マーケット』です。貧困という社会問題に着目し、社会課題を解決しながらも、新たな「顧客」を創造していく次世代ビジネス戦略について書かれています。常識を捨てて自分でバイアスを乗り越え、顧客視点で考えるという、社会を変えるビジネスの仕組みとそれをつくる過程をさまざまな事例で理解でき、とても大きなインスピレーションを受けました。

マーケティングは何のためにあるのかというと、私は社会を良くするための思考やスキルだと思っているんですね。誰かの着眼点で新たな価値を生み出し、そこから新たな市場が生まれていく。その多様な実例を教えてくれたのがこの本です。

福田マーケターとして影響を受けた人は?

内藤氏まず、全世界のユニリーバのリーダーたちに大きな影響を受けました。ユニリーバは、顧客志向・マーケティングに関する教育体制がしっかりしており、マーケティング部門に関わらず、 全社員がマーケティング思考を持っています。チームで新たな価値創造をすることが文化になっているんです。

ユニリーバは、トップがOKを出しても生活者がNOであればダメ。商品でもCMでも、つくる時に部門のトップがOKを出したものを作っても、生活者がOKと言わなければ永遠に作り続けなければなりません。つまり生活者のために本当に「あったら良い」を実現しないと、世の中に提供できないんです。

そういう意味で、生活者にプロトタイプを見せたり、使ってもらって修正したりというプロセスの中で、マーケティング部門だけでなく全ての部署の上司、先輩、後輩からも学ぶことはたくさんありました。当初から無意識に、デザイン思考を実践してきたように感じます。

社外の方としては、私は株式会社スマイルズの遠山正道さんから影響を受けました。私が学生時代からお世話になっていることもあり、理想の経営者の1人です。遠山さんは「マーケティングは不要だ」とおっしゃるのですが、それはデータ分析や統計だけに頼っては新たな価値が生まれないという観点でおっしゃっているだけで、顧客の心の本音(インサイト)を捉えて新たな価値を創るという意味では、遠山さんは真のマーケターだといつも感じています。

 人の感性を生かし、n1を大切に新たな 「価値をつくる」、それを「世の中の温度を上げる」という形で世界に貢献する。アートのようにビジネスをされている遠山さんからは、いつもたくさんのことを学ばせていただいていますし、共感できる部分がたくさんあります。

マーケティングは、人の生活や世の中に新たな価値を編む挑戦

福田内藤さんのように、新しい価値を生み出したい、マーケティングをやりたいと思う人が、アイデアやイメージを持つためにはどんなところに気をつけたらいいと思いますか?

内藤氏日々生活する中で、マーケティングを学んだり、実践したりする機会はたくさんあると思うんです。ただ、マーケティングと言っても、それがどのような価値を生む機会なのか? を理解しておくことは重要です。そうでなければ、最初に出逢ったマーケティングが、マーケティングの定義になってしまう。近視眼的にマーケティングを捉えてしまうことになりかねません。

例えば、ある会社では店頭POPをつくる部署が「マーケティング部」と呼ばれているとします。そうすると、その会社のマーケティングしか知らない人にとっては、マーケティングの定義が「販促」に限定されてしまいますよね。

マーケティングは人の生活や世の中に価値を生み出せる考え方で、すごく広い意味を持っています。その一部分だけを見て「マーケティング」と呼んでしまうのはもったいないと感じています。 どこか一つの会社のマーケティングだけでなく、さまざまな会社の事例を見たり、いろいろな場所に出かけて実際に顧客として体験したり、マーケターとして実践したりと、自分でどんなマーケティングをしているのかを理解しながら、経験を広げていくことが大事だと思います。

その上で、自分の興味に合う、かつ社会に新たな価値を生む課外活動にチャレンジすることは非常にオススメです。誰もあなたに社会貢献することを求めていないし、目の前のことに集中しろ! なんて言われてしまうこともあるかもしれませんが、課外活動は会社でできないことへチャレンジできる場になりますし、世界の誰かに新たな価値を生むとても大きな挑戦――どんな思いを持って取り組み、価値を生むのか――となります。本業だけにとらわれず、価値を生む経験を積むことになるので、自分を成長させてくれるとても良い機会になると思います。

福田例えば有形商材のマーケティングで販促を担当している人は、全く関係ない無形サービスの企画をやってみるとか?

内藤氏そうそう。本当に身近なことでいいんです。新たな収入源を作る! と意気込みすぎなくても、自分の好奇心を誰かの価値に変える機会をつくってみると良いと思っています。例えばフリーマーケットでお店を出してみるとか、友だちに提供してみるとか。そして、それは 1人でやっても、チームでやってもいい。どんな価値が編み出せるのかに関しては、普段無意識にやっていることにヒントが隠れているはずです。

若手へのメッセージ

福田なるほど。では最後に、これからマーケターになりたい人や、今現在マーケティングに携わりながらモヤモヤしている人向けにメッセージをお願いします。

内藤氏マーケティングが自分にとってどんな意味を持つのか、何のためにやりたいのかを考えることが大事だと思っています。「マーケティング」って何となくカッコいいけど、イメージだけで選ぶのではなく、自分は何のコトやモノに情熱が湧くのか、どのような人のために価値を生み出したいのかを考えてみることが大切です。

自分の興味や好奇心の源泉を知ったうえで、誰かの役に立ちたい、社会の価値を変えたいと思うなら、マーケティングを学ぶのは特におすすめです。

私がマーケティングで何をやりたいのか自分に問うならば、人がより良く生きるきっかけ、喜びある瞬間をつくることに、マーケティングを活かしていきたいと答えます。それは自己実現を応援するマーケティングです。そのために、人の価値を可視化する力を「ピープルブランドマーケティング」、一人ひとり異なる生き方を編んでいく力を「キャリアマーケティング」と呼び、数人のベンチャーから2万人以上の大企業まで、そして中高大学生からシニアプロフェッショナルの方々まで、さまざまな形で機会を提供しています。

全ての人にとって、本質的なマーケティング思考は、よりよく生きる力になります。またその力は、誰かを幸せにする力でもあると感じています。マーケティングは、決してマーケターのためだけにあるわけではないんです。

例えば、私は学生時代からフィリピンの児童養護施設の子どもたちを支援していますが、その子どもたちがマーケティング思考を持っていたおかげで人生が好転するとか。もちろん、それにはマーケティングだけでなくリーダーシップや他のスキルも重要です。今回のメインテーマであるマーケティングは、本人が持つ好奇心や経験から紡がれる発想を、誰かの価値へと変え、届ける力であると思います。そのような本質的なマーケティング思考を学び、実践し、磨くことは、より良い世界へ向けた新たな価値を創る力であり、自分の人生を拓く、自己実現をする力を手にすることです。1人でも多くの人に、体験を通じて学びを得て、実践し、人生に活かす、そんな機会をこれからも共に創っていきたいですね。

福田最後のお話、すごく共感します。本日はありがとうございました!

(聞き手、写真:福田正義、執筆、編集:筒井智子)