競争優位性は「人」による顧客体験が左右するー株式会社クリスプホールディングス 代表取締役 宮野浩史

1つひとつ手づくりされたカスタムサラダを提供する「CRISP SALAD WORKS(クリスプ・サラダワークス)」。現在都内を中心に14店舗展開している同社の代表 宮野浩史さんは、もう1社フードテックの企業を設立されています。

今回はそんな宮野さんに、飲食業の現状や競争優位性の源泉は何か、なぜフードテック企業を作ったのか、未来の飲食業界はどうなっていくのかについて、じっくり語っていただきました。

 

【宮野浩史・みやのひろし】株式会社クリスプホールディングス代表取締役 社長 1981年千葉県生まれ。15歳で渡米し、18歳のときに現地で飲食業にて起業。22歳で帰国し、タリーズコーヒージャパンで緑茶カフェ業態に5年ほど携わる。その後、ブリトー&タコス専門店「フリホーレス ブリトー&タコス」を立ち上げる。現在はカスタムサラダ専門店「クリスプ・サラダワークス」などを展開するほか、カチリにてモバイルオーダー運用ソリューション「PLATFORM 」事業にも取り組む。

天津甘栗からキャリアスタート。原点「熱狂的なファンをつくる」に至るまで

福田:これまでもいろいろなインタビューでお話されてきたと思いますが、最初は天津甘栗の販売からキャリアをスタートされたんですよね。

宮野浩史氏(以下、宮野氏)15歳でアメリカに留学をして、現地の高校を卒業した後に天津甘栗の販売を始めました。とにかくすごく売れるんですよ! 僕も日本で売られているのは知っていたけど、別に喜んで買うようなものじゃなかったので、場所が変わるだけでこんなに売れるんだ! と驚いたのを覚えています。

福田:その後帰国されてタリーズに。

宮野氏はい、5年ほどお世話になりました。創業者の松田(公太)さんの直下で、すごくかわいがっていただいて。今はなくなってしまいましたが、KOOTS GREEN TEAという緑茶カフェ事業の責任者として、最も多いときで14店舗ほど運営していました。

その後、やっぱり日本でもう1回商売がやりたいと思い、2007年に独立して、ブリトーとタコスの専門店をオープンさせました。僕はアメリカ留学時代にブリトーとタコスが大好きだったので、日本でも食べたいなと思って始めたんですが、最初は「セブン-イレブンで売っているやつでしょ」と言われていました。

でも、自分にとって転機になる出来事があったんです。オープンしてしばらくした頃にアメリカ人っぽい男性のお客様が来店され、握手を求められたんですよ。

理由を聞いたら、その方はアメリカ生まれ、カリフォルニア育ちだからメキシカンフードが大好きで、でも日本人と結婚して子どももいるから、2~3年に1回しかアメリカに帰っていないそうなんです。帰国したら毎日のようにブリトーを食べるし、現地で買ったブリトーを冷凍して日本に持って帰ってきたこともあるほどのブリトー好きで。

日本に住み始めてから10年間ずっと、ブリトーの店ができるのを待っていた、この店は味が現地と同じだけでなく、雰囲気もアメリカの地元に戻ったみたいだ、って喜んでくださって。「値段が倍でも買うよ!」って言われて、すごく嬉しかったんですよ。

だから僕は新しい人にたくさん来てもらうよりも、とにかく好きだと言ってくれる人にもっと来てもらおう、もっと好きになってもらおうと考えました。これは僕らの経営理念である「熱狂的なファンをつくる」につながるんです。まさに原点ですね。

飲食業界において料理・箱で差別化するのは難しい時代に

福田:これまで幾つもの商材を手がけられていますが、どうやって選んでいますか?

宮野氏純粋に好きだから。自分が好きなものなら判断ができるじゃないですか。例えば僕はお酒をほとんど飲まないんですね。だから僕自身がお酒の店をプロデュースするのは難しい。なぜなら、人からいろいろなことを言われたときに、その良し悪しが判断できないんですよ。でも自分の好きなものを扱っていれば、「それは違うと思う」と言えますから。

新しい業態の店を作るときに意識しているのは、100人がいたとしたら、極論その中の1人だけが超大好きになってくれる店を作ること。他の99人は「こんな店、絶対にうまくいくわけない」「高いし、絶対に行かない」と言うかもしれませんが、そもそも飲食店は全員が来るようなビジネスではありません。だから尖った業態を作るよう意識しています。

福田:その考えに至ったのは、お客様と直接接してきたからですか?

宮野氏そうですね。天津甘栗の販売からスタートして、最初にお客様と直接接する経験ができたのは大きかったです。数字も大切ですが、我々のビジネスでいうとPOSで見えるのは過去の売上だけ。でもお客様と話すと未来が見えるんですよ。

直接話すという意味では、スタッフも重要です。

福田:「人材」ということですか? クリスプは店頭スタッフがお客さんと積極的にコミュニケーションを取っている印象があります。

宮野氏まだ課題は多いですが、そう言っていただけるのはありがたいです。

飲食業界において、良いお店の要素は「料理・人・箱(店舗)」の3つだと言われています。そのうちの「料理」と「箱」はテクノロジーの進化と消費者心理の細分化によって、競争優位性を担保するのが難しくなってきていると感じているんです。

例えば料理で言えば、おいしいものを作るのが簡単な世の中になりつつあります。ネットを見れば、おいしいレシピがいくらでも転がっていますから。

もちろんミシュランに掲載されるような料理人を否定しているわけではありません。彼らが追求しているのは、僕らとは全く違うジャンルですから。僕らのような、いわゆるチェーンオペレーションのレストランにとって、料理は競争優位性にならないという意味です。

もう一方の箱に関しては、かつて店の内装はプロデューサー的な人がいて、その人が店をプロデュースすると流行るような風潮がありました。でも最近は全然見かけませんよね。

なぜなら、そういう人たちに頼らなくても、Instagramで世界中の店を見られるし、Googleのインストアビューを使えば店内の内装を見ることもできます。

業態も流行りはどんどん変わるし、パクられるスピードも速いですよね。いくら企画が面白くても、以前のように1つで10年飯を食っていける時代は終わりました。

つまり業態も箱も大事だけど、競争優位性にはなりにくいわけです。

競争優位性は、「人」が担う

福田だから「人」なんですね。

宮野氏僕は飲食店の競争優位性って「顧客体験」だと思っています。料理がおいしい、店がかっこいいだけでなく、お客様のトータルの体験。その体験を最も左右するのが「人」なんです。

我々は六本木ヒルズでサラダの店とピザの店を隣り合わせでやっているんですが、ヘルシーなサラダとちょっとジャンクなピザって、ある意味対極なものですよね。でもサラダの店だと思って、間違ってピザの店に入っちゃうお客様もよくいるんですよ。そのときにスタッフが「同じ会社だけど、こっちはピザの店なんです」と伝えると、「じゃあピザでいいか」ってピザを食べる人がほとんど。

つまりお客様の心理は、ちょっとしたことでひっくり返ってしまう。逆に言えば「人」がひっくり返せるわけです。間違って入店したお客様に接したスタッフの印象が良ければ、「感じ良かったし、食べてみるか」と思ってもらえるかもしれない。

だから飲食業において「人」はすごく重要なんです。せっかく面白い、魅力的な人がたくさん集まっている業界なのに、彼らに機械でも出来る仕事をやってもらうのはもったいない。会計や注文、もしかしたら調理も、機械がやっても同じクオリティなのであれば、機械がやればいいと考えているんです。「人」にしかできない、価値を出せることが「接客」です。

クリスプでは完全キャッシュレスの店を展開していますが、流行りや生産性を上げるためにやっているのではありません。生産性や人手不足の解消はあくまで副次的な話で、スタッフに「人」だからこそできること、つまり接客に時間を使ってもらいたいからなんです。

福田:顧客体験をすごく大切にしているんですね。

宮野氏お客様の体験を高めることは、常に意識していますね。

以前、残業中によく1人で来店してくださるお客様がいて、今まで何を食べていたのか聞いてみたら、隣のコンビニでおにぎりとインスタントの味噌汁を買っていたと言うんですね。それは300〜400円くらいなので、うちの1,200円くらいするサラダとは全然値段が違うわけです。

でもお金をケチっているわけではなく、残業中にパッと食べたいと思ったときに「ハンバーガーは止めておこう」くらいの意識しかないと言っていました。その人にとって、お金はあまり関係なくて、限られた時間の中で自分の食べたいものを食べることが重要なんですね。

以前は同じ業界の同じ価格帯の店を競合と呼んでいましたが、今はもう競合を意識しなくなりました。同じようにサラダを売っていても、お客様の来店動機は違うかもしれませんから。サラダだけで評価されるのは逆に危ないと思うんです。おいしいサラダならいくらでも作れるし、うちより良い場所で安く出せばいいわけですから。

だから我々は競合ではなく、いかに顧客体験を高められるかに集中しているんです。

福田:接客以外に顧客体験を高めるアイデアはありますか?

宮野氏これからのキーワードとして「カスタマイズ」が重要になってくると考えています。一昔前は、東京カレンダーのクリスマス特集に載っていた店に、みんな行きたがっていましたよね。もちろん今もそういう傾向はありますが、好みが多様化してきていると感じていて。

必ずしもブランドものだけが良いわけでもなく、自分だけのものが好まれるというか。日本って、学生でもちょっと頑張ればブランドものの服や靴も買えてしまうじゃないですか。

だったら高いものにはあまり意味はなくて、値段に関わらず自分の感情を揺さぶるもの、ストーリーがあるもの、自分のために作られたものにお金を使うようになっていくと思っているんですね。そのときにキーワードになるのが「カスタマイズ」。いかに1つのパッケージを1人ひとりのために作っていけるかがポイントになるはずです。

後編、マーケティングとは「お客様を理解し、お客様と繋がること」目の前にあることを一生懸命や続ける大事さとは。 に続く

本記事は2019年10月取材時の内容です。

株式会社クリスプは株式会社カチリをグループ化し、2020年1月20日付で株式会社クリスプホールディングスを設立しています。

(聞き手:福田正義、執筆・編集:筒井智子、写真:小澤亮)