好奇心を大事にー花王マーケター向縄さんが考えるマーケターに必要なことー

前編、日常をいかにマーケティングに落とし込むかーー向縄一太さんが語るマーケティング実践学はこちら

花王で16年にわたりマーケターとして活躍されている向縄一太さん。家庭の定番アイテム「アタック」や「エマール」、「ハミング」、「マジックリン」などのブランド担当を歴任されてきました。そんな彼が考えるマーケティング論について、過去のご経験を交えながら伺いました。

向縄一太(さきなわ・いちた) 花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業部門ホームケア事業部 シニアマーケター 大学卒業後、花王株式会社のマーケティング部に従事。入社以来16年間、マーケターとして、国内だけでなく、海外のブランド育成に取り組み、衣料用洗剤、住居用洗剤ブランドを通して、日本の衛生環境の改善、また日本の衛生文化を世界へ発信する事に取り組む。「マーケティングとはお客様の満足度を高める行為」と持論を持ち、積極的にお客様との対話の場を持つ。直近5年間で、アジア各国のお客様300人以上のご家庭を訪問し、数多くのお客様の課題を解決する商品を世に出す。

日常的に考えるマーケターの「なんだろう」

福田:向縄さんはマーケティングのどこに楽しさを感じていますか。

向縄一太氏(以下向縄氏)個人的な感覚ですが、マーケティングはあくまで「手段」だと思っています。想いがあったうえで、それを叶える手段の1つがマーケティング。その先にコンバージョンの変化が起こる。つまりコンバージョン数字の変化の裏には、消費者の気持ちの変化があるんです。

数字の変化の裏側にある消費者の気持ちを理解しようとすることこそが、マーケティングの本当の楽しさであり、難しさでもあると考えています。

福田では、これからマーケターを目指す方々にどんな経験を積めばいいか、成長するために何を学べばいいのか教えてください。

向縄氏マーケティングを理解するうえで、その時々の時代の流れも大切ですが、どんな時代でも日々の好奇心が一番大事なんだと思います。面白い人に出会ったとき、面白い商品に出会った時、自分はなぜ面白いと思ったのか、その理由を推察し、自分なりの答えを持つようにすること、そういった日常の所作や意識を向けているかどうか。

もちろん学術的なマーケティングもありますが、日々アンテナを張って過ごしている方が楽しいと思います。

福田商品を手に取ってみるとか、実際に現地に足を延ばしてみるとか、経験が重要ということでしょうか。

向縄氏遊ぶことも大事ですが、その後でマーケティングに落とし込んだり、なぜ面白かったのかを考えたりしないと、ただ遊ぶだけ終わってしまいますよね。自分がその場に入って、いかに考えるか。それが日常からマーケティングを身につける秘訣だと思います。ただ、仕事以外でこういう思考を持つのはなかなか難しいんです。少しずつで良いので、自分の感想や思いに対して「なぜこう思ったんだろう」と考え、それをストックしていけるかどうかが、マーケターとして後々非常に大きな資産になるのではないでしょうか。

影響を受けた人、本

福田:向縄さんが影響を受けてきた人や本について、紐解いていきたいなと思います。

向縄氏:まず影響を受けた人は、入社3年目の上司です。一緒に働いた期間は短かったのですが
、そこからの気づきや学びは非常にありました。その上司は花王で複数の商品やブラ
ンドを立ち上げた方。さっきお話ししたさまざまなことに興味を持って発想し、それ
らをロジックに落とし込んでいく方なんです。

きちんとロジックに落とし込んで商品化して、その商品化したものの素晴らしさや
ワクワク感を伝染させていくんですよ。いつの間にかみんなを動かして、賞品のヒッ
トやブランドの成功に導いている。その一連の流れを目の当たりにして、これがモノ
創りであり、マーケティングなのだと教えてくれました。
その方は、職人みたいな方。パッケージデザインを考えるときも、まずは商品を置い
て、ずっと眺めているんです。

福田:ずっと眺めているだけですか。

向縄氏:ずっと見ながら、頭の中で何かを考えているんです。過去の事例やらさまざまなものを持ってきて。

例えば、お菓子のポッキーは食べるときの“ポッキン”という音の響きから名付けられた
と聞きましたが、それと同じようにキュキュットという商品も「キュッキュッ」とい
う音から閃いて名付けられたんです。
自分が手掛けた過去の事例なども含めて、さまざまな引き出しから情報を引っ張り出
してきて、商品やパッケージデザインに落としていくんです。一見、ただ商品とにら
み合っているだけのように見えますが、いろいろなことを考えながら眺めているんだ
と思いました。その集中力と好奇心は、ただただすごいなと。

福田:ちなみに冒頭にマーケティングの本について伺いましたが、影響を受けた本などはあ
りますか。

向縄氏:本では佐宗邦威さんが書かれた『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』です
。佐宗さんもマーケターを経て、行きついた、というよりまだ途中なのだと思います
が、マーケターとしての1つの道標を示してくれています。とても学びが多い本だと思
います。

もう1冊は野中郁次郎さんが書かれたイノベーションの作法―リーダーに学ぶ革新の
人間学』です。モノ創りの醍醐味、またどう新しい価値を世に出していくべきかにつ
いて学べる良著だと思います。

マーケティングを目指す若手へ

福田:最後にこれからマーケティングを志す若手の方に、メッセージをいただけますか。

向縄氏:最初にお話しした通り、マーケティングは「お客様の満足度を高める行為」だと思っ
ています。マーケターは、お客様の満足度を高めるための「起点」を作れるような人
になる必要があるとも思っています。

まず日々好奇心を持って楽しんでほしいですね。マーケティングやフレームワーク、
論理などいろいろありますが、結局マーケターとして最も必要なのは好奇心だと思う
んです。それを伸ばすことに時間を使ってください。好奇心という言葉は、奇を好む
心。奇という漢字を分解すると、大いなる可能性です。まとめると、好奇心という言
葉は、大いなる可能性を好む心です。日々、色々な「奇」をみつけてくださいね。

これからの時代、学問ができればいいわけではなく、自分の「好き」をどれだけ追求
できるかが肝になってくると思います。それができれば他に転用できるので。

就職活動だから、親に言われたからなどの他動的な理由からではなく、自発的に追求
してほしいなと思います。

福田:本日は本当に面白いお話をありがとうございました。

(聞き手:福田正義、執筆:内野奈々、編集:筒井智子、写真:小澤亮)